Historical View

宇宙の騎士の行進

レコードがリリースされた当初は“スタジオ・ミュージシャン達の寄せ集め”という枠で括られ、評論家達から酷評をされたわけですが、しかしこれもあながち的外れというわけでもないんですね。後年、メンバーに対して行われた幾つかのインタビューおいて彼等自身も
 「TOTOとしてフル・ラインナップでスタジオに入ったのはこの『宇宙の騎士』のレコーディングが始まってから」だと話していますし......それでもこれだけのアルバムが作れてしまったわけですから凄いことは凄いわけですが。

 記念すべきデビュー・アルバムとなった『宇宙の騎士』に収められた曲のいくつかはデビッド・ペイチが以前から書き溜めていたものでした。ファースト・シングルとなる"Hold The Line"もそんな曲の一つで、彼が大学生の時に書き始めたものをこの頃になって完成させたものです。
 「初めに思いついたのはあのイントロのピアノ・リフなんだ。それで何日もあのリフを引き続けていたら頭に中に"Hold the line, love isn't always on time"っていうメロディーが浮かんだんだ」。
 一方のジェフは“Hold The Line”について......「"Hold The Line" ではスライ・ストーンズのオリジナル・ドラマーのグレッゴ・エリコが“ Hot Fun In The Summertime"(*注1)でやったようなプレイをしようとしたんだ。。ハイ・ハットで3連符で刻みながら、スネア・ドラムを2拍、4拍目のバックビートに入れ、バスドラムは1拍目の頭と2拍目の3連の最後に、ちょうどシャッフル・チャールストンみたいな感じだね。
 で、僕らがこの演奏をした時、「"heavy four-on-the-floor rocker(がっちりとしたハードリフ?)"になりそうだ」って言ったんだ。でも本当に僕らがやりたかったのはスライ風のグルーブだったんだけどね。あの3連符のグルーヴを作ったのはデヴィッドだ」。
 実際にジェフがプレイしたように、これだけ頻繁に沢山のキックが入ると、もっと重苦しい感じになりがちだと思うのですが、さすがにジェフが叩くとサクッとした感じになりますよね。曲が進行するにつれて、どんどん足数が増えて行くこのプレイは私達を唖然とさせてくれました。

 そしてアルバムのプロモーションを兼ねたミニ・ツアーが始まりました。再びジェフ......TOTO Live!「僕らって物凄く運が良かったんだ。初めてロードに出たのは12月で、数週間もなかったね。ピーター・フランプトンのオープニングに2ギグ、そしてケニー・ロギンズのオープニンクで5ギグをやって、少し休んでからは全部僕らがヘッド・ライナーだったよ。2年位飛び越しちゃったみたいな感じだね。ちょっとの間で2,500から10,000席ある会場でヘッドライニング・ギグやれたんだからね。ちょうどアルバムは大当たりしてたし、シングルもピークの時だったから、そのお陰なんだけど。だから僕等はライヴ・ステージでもっとお金をかけられるようになった......例えば前々からやってみたいと思ってたステージのセッティングとかリア・スクリーン・プロジェクションなんかをね」。

 残念ながら現在、これらのステージをビデオ等で見ることは出来ませんが、その雰囲気は『On Stage At The Agola』なるテレビ放送向けに作成されたと思われるビデオで見ることが出来ます。この番組は日本では1981年頃にテレビ東京にて"Jun サウンズ・クリエーション"とかいうタイトルで放送されていた番組だと思います。ステージでのメンバーの溌剌とした姿がとても新鮮で、若きジェフのダイナミックなドラミングはまさに感動的と言えるのではないでしょうか。
 このライブの中では後に『ハイドラ』セッションで正式に録音されることとなる"Tale Of A Man", "All Us Boys"等を演奏していますが、この2曲はTOTO結成以前に既に書かれていたものだそうです。彼らは常々レコーディング時にはかなり多くのマテリアルを録音し、その中からベストの選曲をすると話していますが......『宇宙の騎士』のセッションにおいても25曲前後も録音しているようで、我々ファンの耳に届いてのはその中の一部。多分このレコーディング時にもこれらの曲を一度は録音しているはずですね。そしてこのビデオの中ではもう1曲、未発表曲の"Hey Little Girl"も演奏しています。多分この曲も先のセッションでもレコーディングしていたと思われますが、残念ながら未だにお蔵入りのままになっています。詳しくは--->こちらへどうぞ。

 また、この頃のエピソードの一つが『ロッキンF誌』に掲載されておりましたのでご紹介します。ギタリストの水谷分生氏(←この方は誰でしょうか?)が、その頃見たTOTOのステージの模様を紹介してくれております......。
 「実は、ボクは彼らのデピュー・アルバムのレコーディングを見ているんです。どういう経緯かと言うと、ボクは自分のシングルのレコーディングのためにアメリカに渡って、デヴィッド・フォスターなどを紹介してもらったんですけど、その時に彼がジェフ・ポーカロを連れて来たんですヨ、そして、彼の家に遊びに行った時に、その時にはまだTOTOって名前は言わなかったんだけど「今、自分のグループがあって、レコーディングをしているから、良かったらそのメンバーでやってみないか?」って言ってくれてネ。実際やる寸前まで行ったんだけど、彼らのレコーディングの方を急がなければならなくなってしまって駄目になってしまったんです。でも、「スタジオに見に来ないか?」っていうことになって、レコーディングを見せてくれたんですヨ。

 で、ライヴはロキシー・シアターでのコンサートの初日の2回目、夜11時からのを見に行ったんですけど、その時にはボズ・スキャッグスも見に来ていました。とにかく、ロスのミュージシャンがみんな見に来ているって感じで、最初は「オレはミュージシャンだ」っていうポーズを取っていたんですけど、TOTOの演奏が終わったら全員顔色なしって感じてしたネ。どちらかと言うと、一般の人よりも、ミュージシャンの方に強い印象を与えたようでした。
 ロックの場合、ライヴでは見せるって要素も非常に大切だと思うのだけど、そういう点から言うと、途中でゴジラのような怪獣がステージに現われる他には、ジェフ・ポーカロがドラム・セットの前に出て来て、カウ・ベルでリズムを取るくらいで、その時には見せるバンドっていう印象はなかったですネ。音に関して言えば、とにかく信じられないくらいの音で、レコードをそのままかけてるって言われても信じてしまう程のスゴイ音でした。その時には、バンドのメンバーの他に、ギターとパーカッションを演るミュージシャンを加えていましたけど......。

 ステージでは、スタジオ・ミュージシャンっていうことで、あまり動きはありません。これは、日本でもアメリカでも同じなんじゃないでしょうか。その中でキーボードのデヴィッド・ベイチが可愛い子チャンっぽく振る舞うのが面白かったです。普段会うとポソッとした人だけに余計に面白いですネ。それと、スティーヴ・ポカーロのタイトな動きは女の子にウケるんじゃないかな? 基本的には、ライヴでも個人のプレイをフィーチャーするというよりは、きっちりとアンサンブルで聞かせるグループです。彼らは、元々アンサンブルで聞かせる方だし、グランド・ファンクやツェッペリンのようにグイグイ押すって感じではないです。でも、そういった要素が全然ない訳じゃなくて、例えば、スティーヴ・ルカサーがソロを演った時なんかにそんな感じを出していましたネ。ただ、全員がそれぞれ、そういったソロを取るといったような、ダラダラとしたステージはやりません。
 彼らの演奏に対する客の反応も、ただ呆気に取られちゃって、盛り上がるどころじゃないって感じでしたネ。TOTOのメンバーは、ノセようとしているんですけど、客の方は音を聞く方に気を取られちゃって、あっと言う間に終わっちゃったて感じです......」。
 ところで、アルバムからのファースト・シングルである"Hold The Line"はすんなりと決まったようですが、続く2枚目のシングルを選び出す時には大いに揉めたようで、ジェフとしては"I'll Supply The Love"よりも別の曲、それがどの曲を指しているのか分かりませんが、"もう少し勢いがつくような"曲がいいと思っていたようです。しかしレコード会社から押し切られた格好で2枚目のシングル曲が選定されました。
 どの曲をシングル・カットするかというのはやはりかなり難しい問題があるようです。それこそメンバー間での意見の食い違いもあるでしょうし、レコード会社にしても、その地域性......アメリカ、日本、ヨーロッパと、それぞれのマーケットがあるし、おいそれと簡単には決められないことなのですね。
 そしてご存知のように大方の予想を裏切る形で"Hold The Line"、"I'll Supply The Love"、"George Porgy"等が大ヒットし、一躍スターの仲間入りをすることになります。TOTOの成功に対して当時の音楽関係者はこんな風に語って賛辞を送っていました。

リチャード・ベリー......プロデューサー。
「TOTOが他のセッション・バンドと違って成功を収めることが出来たのは、個人個人のセッション活動よりもTOTOとしてのバンド活動に専念したからだ。そのことが、バンドのまとまりをしっかりとしたものにしているんだ」。

米コロムビア・レコード。
「彼らの成功は、最初から分かっていた。だからこそ、彼らのプロモーション・キャンペーンのために60,000ドルも出資した。そして、今は次のキャンペーンを計画しているが、150,000ドルぐらいの予算で、テレビ・スポットやレコード店でビデオを使うつもりだ」。

ボズ・スキャックス
「このレコードを聞いて、最初に気がついたことは曲の出来と音の良さだ。まるで弟がひとり立ちしたような気持ちだ。彼らが、脚光を浴びるだろうということは分かっていた。何故なら、彼らは流行に敏感で、しかも一歩進んでいる。常に将来に目を向けているし、このビジネスを愛し、しかも良く知っているからだ」

そしてジェフ......
 「なんせあれは9ヶ月もかけて、可能な限りパーフェクトに作ったからね。ガレージの中でリハーサルを重ねたような新米のグループとはわけが違うんだ。10曲中どれをとっても堅くシングル・ヒットが狙えるものばかりなんだ。なぜかっていえば、ニュー・グループとして出来る限りチャンスを掴みたかったからね」。

 結局、TOTOはこの年大躍進をなし"Hold The Line"はいきなり全米5位を記録、見事なデビューを飾り、続く"I`ll Supply The Love"、"Gerogy Porgy"が連続ヒットし、アルバム自体も最高9位を記録、200万枚以上を売り、新人としては異例の大ヒットとなりました。それまでにもスタジオ・ミュージシャンにより結成されたグループもありましたが、そのほとんどがインストゥルメンタル曲が主体で、テクニック、インプロビゼーションを競っていたのに対し、TOTOは専任のリード・ボーカリストを置き、あくまでも歌モノを中心に演奏するという点が他のバンドとは別の個としての存在になったようです。ジェフ、デビッド・ペイチやスティーブ・ルカサーのバック・グランドを考えてみればこれは至極当然のことで、彼らが元々スタジオ・ミュージシャとしてもてはやされた一つの要素に"ロック・フィールで演奏できる"ということがあったのは間違いないことでしょうし......。という以前にジェフ自身は決して自分達がスタジオ・ミュージシャンであるという意識は全くなかったはずで、そのように取り扱われることを酷く嫌っていたのは周知の通りであります。セッション自体に参加するのはあくまでヘルプ的精神にのとったものでした。

 ジェフはこのアルバムを評して「TOTOのサウンドなことは確かなんだけど、いろんなことをやり過ぎたかもしれない......R&R、R&B。で、結局何んて言っていいのかわかんないようなアルバムを作ったんだよね。僕らにしてみればプロデュースなんかのし過ぎっていう感じだね」。

 この大成功を評価されたTOTOはグラミー賞ニュー・アーティスト部門にノミネートされることになるのですが、残念ながら最優秀新人賞はテイスト・オブ・ハニーの二人の持っていかれてしまいました。

Taste Of Honey1978 - 21st Annual GRAMMY Awards
The Best New Artist Year Winner
Taste Of Honey (Janice M. Johnson, Perry Kibble, Hazel Payne & Donald R. Johnson)


僕らはまずバッキング・グループじゃない。スタジオ・ミュージシャンの集団でもない。一つの意志と意見のもとに結成されたTOTOという個性を持ったグループなんだ。全員が十分な経験と技術を持っていて、自分たちが何をやりたいのかわかっているという点に特徴があるんだよ」......ジェフ。

TOTO _ TOTO
CBS SONY INC.
Side A
1. Child'S Anthem
2. I'll Supply The Love
3. Georgy Porgy
4. Manuela Run
5. You Are The Flower

Side B
1. Girl Goodbye
2. Takin' It Back
3. Rockmaker
4. Hold The Line
5. Angela

GO! 『Discography』

Sly & The Family Stone _
Greatest Hits

1. I Want to Take You Higher
2. Everybody Is a Star
3. Stand!
4. Life
5. Fun
6. You Can Make It If You Try
7. Dance to the Music
8. Everyday People
9. Hot Fun in the Summertime
10. M'Lady
11. Sing a Simple Song
12. Thank You

Sly & The Family Stone










(*注1)Hot In The Summertime
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