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Steely Dan Pretzel Logic
 数多く存在する名盤の中でも一つの "マスター・ピース" 的作品に数えられる一枚でしょう! 「聴けば聴く程に味が出る」とでも言いましょうか、「聴く度に新しい発見がある」という、そんなアルバムです。私がこのアルバムを初めて聴いたのは多分高校生の頃だっと思うのですが、その時はこの『うそつきケイティ』の良さはちっとも理解出来ませんでした。スティーリー・ダン自体の音楽性も "かっこいい" とか "クール" であるとかいった感想も持てなかったんですよね。この頃はラリー・カールトンをよく聴いてて、その流れでスティーリー・ダンに辿りついたに過ぎなかったわけで。まぁ なんだか意味不明の音楽だなぁ〜、と。そんなわけでこのアルバムはそれ以来ろくに聞くこともなくて押し入れ中で長〜い眠りについたわけです。その後ジェフにのめり込むようになり、改めて聴き直すことになるわけですが、その時にはあまりのカッコ良さに "衝撃" が体中を突き抜けていきました。この良さが理解できるまでにどのだけの年月がかかったことか(^^; しかしこれ程までに聴いた印象がガラッと変わってしまうとは . . . 初めて聴いた時は一体何を聴いていたんでしょう、私は? 我ながら呆れ返えります。

 例によって前説が長くなってしまいましたが本題に入ります。この『うそつきケイティ』ですが、既に繰り返し語られているように単純に "スティーリー・ダンの一作品" と呼ぶのには躊躇われてしまう程沢山の、そして豪華なゲスト陣を迎えて録音が行われました。これは前作『プレッツェル・ロジック』より始まったプロダクション・チームの実験的録音方法とも呼ぶ "ワーク・ショップ形式" をさらに一歩進めた結果であり、その参加人数たるや前作を遥かに凌ぐものとなりました。その為グループはドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーの二人という非常にミニマムな構成となってしまったわけです。
 ジェフは前作の『さわやか革命』より彼らと関係を持ち始め、それに続くワールド・ツアーに "セカンド・ドラマー" として参加し、更にこのアルバムではジャケットに顔写真までもがフューチャーされたわけですが、そのことがジェフが正式にバンドに加入したことを示しているのかどうかは?マークなのです。というのもこの『うそつきケイティ』以後、ジェフとスティーリー・ダンとの交流はジェフの言葉によると「一方的に破棄」されてしまうわけで、スティーリー・ダン側ではあくまでジェフをサポートメンバーとして考えていたのに過ぎないのでしょうか。

 さて本アルバムにおけるジェフのプレイですが、基本的にはソニー&シェール時代とさほど変化していないようです。この頃のジェフのシグネチャー・フレーズともいえる数々のフィルも当然使われています。またこのアルバムにおいて非常に印象的なのは、多くの曲ではスネア・ドラムが休む間もなく鳴り続けており、これを "ゴースト・ノート" って呼んでしまってよいのか分かりませんが、まさにリズムの隙間を埋め続けているといった感があります。このスタイルがジェフの好みであったのか、スティーリー・ダン側からの要望であったのかは分かりませんが、前任のジム・ホッダーもこの感じで叩いていることが多いようだったので、もしかしたらスティーリー・ダンの二人の好みなのかもしれませんね。もっともジェフとジム・ホッダーとではその洗練度という意味ではまったく異なって聞こえますが。

 この『うそつきケイティ』には『Katy Lied Sessions & More』とタイトルされたボツ・テイク (リハーサル・テイク?) を収録したといわれるブートレッグ盤が広く流通しておりますが、今回はこの "ボツ・テイク" と "正規版" との比較という視点も交えてのソング・インプレッションを書いてみます。この『Sessions & More』には "Bad Sneakers"、"Any World" の二曲を除く全ての曲が収録されていますが、しかしアウト・テイクスといいましても実際にはジェフの叩くリズム・トラックに関しては既に録音を完了した時点でのものと思われますので、ジェフのプレイに関しては正規版と変わらないようです。そして若干ではありますが再生スピードの違いによるものなのか、演奏自体がゆっくりめに感じられます。

 それと、これも有名なエピソードだと思いますが、ミックス・ダウンに拘っていたスティーリー・ダンのプロダクションチームはこのアルバムでは従来のドルビー・サウンド・システムではなく、ロジャー・ニコルスの意見に従いdbxのサウンド・リダクション・システムを導入することにしました。しかしこれが完全に裏目となりミックスダウンは大失敗となったのです。サウンド・リダクション・システムの動作が不安定であった為に全体の音がおかしくなったり、変な位相が掛かってしまったのです。あせったスティーリー・ダンは狂ってしまったサウンドを元に戻すためにあれこれ手を尽くしたわけですが、結局どうやっても元の音に戻すことは出来ませんでした。途方に暮れた彼らはこのマスターテープをそのまま破棄してしまうことも考えたようですが最終的にはリリースすることを決断しました。今日我々が耳にしている『うそつきケイティ』はこの特殊な状況から生まれたものです。しかしこの先スティーリー・ダンを待ち受けているレコーディング・トラブルに比べればこれは序章に過ぎなかったのかもしれませんが (^^;
 因みに先日リリースされたリマスター盤においても当然これらの問題は解消されておりません。先述したアウト・テイクス集ではこのミックス・ダウン処理よりも前段階のものを収録しているようなので、不可思議なサウンド処理がかかっていない無垢なものとなっています。

1. Black Friday
 マイケル・オマーティアンのピアノとデビッド・ペイチの弾くホーナー社のエレピが刻む特徴的なピアノ・フレーズがフェイド・インし曲がスタート。イントロから何かを感じさせるような雰囲気を持っています。チャック・レイニーの弾くベースラインもなんとも不気味。
 このイントロの部分ですが、実際の録音ではジェフがちゃんとカウントを刻み「せ〜の」で演奏が開始されます。しかもこのカウントもご丁寧にシャッフルのリズムを刻むという念の入れよう。そして更にはキーボード群がインする前拍、即ちカウントの4拍目の裏でスネアを一発入れております (まぁ、いつものスタイルですね)。録音開始当初はこういった通常のイントロを想定していたようですが、どこかの時点でフェイド・インする方法に変えられたようです。
 ベイシック・トラックの録音はドラムス、キーボード、ピアノ、ベースといった構成で行われたようです。左チャンネルから聞こえるピアノはともかく右チャンネルのキーボードはもしかしたらオーバー・ダブによるものかもしれません。その間ずっとジェフはハイ・ハットでリズムを刻み続けますが、当然この部分はミックス・ダウン時にオミットされます。
 上記でジェフは殆どの曲の、殆どの部分でスネア・ドラムを鳴らし続けていると述べましたが、この曲では逆にスネアは非常にシンプルに叩いています。リズム自体はいわゆるジェフお得意のシャッフル系リズムではありますが、"ゴースト・ノート" の類を使ったプレイはしていないように聞こえます。ギターソロはベッカーによるもの。
 ドナルド・フェイゲンの歌うボーカルはリリース版で随所に大量のディレイが掛けられますが、勿論リハ・テイクではノー・エフェクト状態です。サビのメロディー・ラインも喉への負担を軽減するためか (?) 楽なラインで歌っています。本アルバムからのシングルカット第一段であり、シンプルでキャッチーな魅力的な仕上がりとなっています。フェイド・アウトする直前にリズム・パターンが倍速になるところがまたカッコイイです。

2. Bad Sneakers
 この曲での聞き所は二つ。一つはドナルド・フェイゲンとマイケル・マクドナルドのヴォイシング。そしてもう一つがウォルター・ベッカーのギターソロとマイケル・オマーティアンのバッキングの妙技でしょう。
 フェイゲンとマイケルのハモリはこの先のスティーリー・ダンのアルバム・キャリアの側面を掌るものとなって行くわけで、この曲ではこの重厚な二人のコーラスに挟まれる形でベッカーのエレガントなギターソロが聞けます。このギター・ソロは本アルバム中でも最高の出来だと思うんですが、個人的には。そしてそれを盛り上げているのがマイケル・オマーティアンのバッキングかなと思います。この素晴らしいピアノ・サウンドですが、これにも一つエピソードあります。ピアノの音に拘わるスティーリー・ダンの二人はセッションに備えてベーゼンドルファーという超高級メーカーのピアノを買わせる為に1万3千ドルという大金をABCレコードに用意させていたのでした(^^;
 この曲でのジェフはイントロにはゴースト・ノートを入れているようにも聞こえますが、微妙ですね。ギター・ソロの時にジェフはアクセント的にタムタムを使っています。このタメ具合もいい感じで、ヘッドがしなる感じがよく伝わって来ます。あっ "たか・ドゥドゥ・た〜ン" もいいですね。 "Including yours and mine" っていう唄い回しは実にドナルド・フェイゲンらしく気持ちがいいです。

3. Rose Darling
 これまたマイケル・オマーティアンによるバッキングが美しい曲です。スティーリー・ダンとしてはかなりポップで、ストレートな楽曲ですね。ベイシック・トラックはドラムス、ピアノ、ベース、ギターという編成のようです。前述の『Katy Lied Sessions & More』ではベーシック・トラック録音時にギターが入る時とそうでない時とあるようですが、その辺りは臨機応変なのか、気まぐれなのか? ギターソロを弾いているのはディーン・パークスということですが、これは予め譜面に起こされたものを弾いたとのこと (採譜はマイケル・オマーティアン担当?)、さらりと弾いているサイド・ギターは誰なのか?
 さてジェフはといえばこの曲でも巧みにゴースト・ノートを加えることでリズムに厚みを出しています。そしてこの時期のジェフのシグネチャーといってもいい程よく使っているフレーズ "ん・タカ・どった" を連発します。しかも毎回組み合わせが、タムタムであったりスネアだったりと変えてくるのがジェフらしい所かな。このフレーズを終始入れ続けていることから、ジェフとしてはある種リフ的なものとして捉えてひつこく使いつづけているのかな? と勝手に想像してます。
 ジェフがカウントを数える声はこの先幾たびもレコードに収録されるわけですが、その声と言えば結構低めで落ち着いた感じのものですが、流石に若き日のジェフ、声がいつもより高めとなっているのが面白いです。

4. Daddy Don't Live In That NewYork City No More
 この曲はリマスター版を聴いたことで印象が大きく変わったひとつです。フェイゲンのボーカルには位相系のモジュレーション (フェイザー?) が掛けられていうるわけですが、アナログ盤で聴く分にはさほどエフェクターが掛かっているようには聞こえなかったのですが、リマスター版ではかなりキツイ目に掛かっているので驚きます。もともとちゃんとしたオーディオ・セットで聴いていなかったので正確な所は分かりませんが、これには結構ビックリしました。
 バッキングのギターはラリー・カールトンが弾いているそうですが、トリルを使った特徴的なのフレーズと (右チャンネル) とクリーン・トーンの短音バッキング (左チャンネル) の両方なんでしょうか? 私の持つラリー・カールトン観とはずいぶんとかけ離れたプレイに聞こえるのですが。
 ジェフは仮テイクを聴くとハッキリと "ゴースト・ノート" を入れているのが分かります。

5. Doctor Wu
 アルバム中のハイライト曲の一つであると思いますが、リミックス時の失敗が顕著に分かる曲でもあり、ジェフのドラムはイントロからシンバルの位相がおかしく、変なモジュレーションが掛かってしまっているように聞こえます。ブリッジ 〜 コーラス・パートにしても然り (アウトテイク版ではこのシンバル音もストレートに聞こえてます)、非常に残念でなりません。
 そんな中でもフィル・ウッズの吹くサックス・ソロのバッキングで叩くシンバルのイントネーションの付け方は聴き所の一つではないでしょうか? そしてエンディングでフェイド・アウトする辺りからドラムが激しさを増して行くのも然り。例によってフェイド・アウト間際の名演が繰り広げられるわけです。正規盤、アウト・テイク版ともに同じところで切れてしまうわけですが、実際の演奏は延々とこのフレーズが繰り返されたことでしょう。フェイド・アウトするのが早すぎますね。ジェフはその流れで3連系のフレーズを連発するわけですが、これ聴くと私なんて直ぐに故コージー・パウェルを想い出しちゃいます . . . 何て単純なんでしょう(^^; それからお得意の流れるようなタム・フレーズも登場します。何度聴いても痺れちゃいますね〜 歌詞は相変わらず何を意味しているのかさっぱり分かりません。

6. Everyones Gone To The Movies
 クレジットにはジェフはドロフォンをプレイしていることなっていますが、マリンバ風に聞こえるのがそうなんでしょうか? 勉強不足で申し訳ないのですが、どんな形の楽器が想像出来ませんが、ジェフがこいう楽器も演奏出来たんですね。この曲でもしっかり "ゴースト・ノート" してます。ちなみにこの "The Movies" がどんな種類の映画を指しているのかはご想像の通り。

7. Your Gold Teeth II
 "問題" の曲です。録音には相当の時間と労力がつぎ込まれました。その辺りの経緯については『Historical View』に詳しく記述してありますので参考にして頂くとして、ボツ・テイクでは仮歌の段階ですから当然何テイクも録音が繰り返しされているわけで、この音源では左右別々のヴォーカル・テイクが残されており、あたかもダブルトラッキングされた様に聞こえてきます。リリース・テイクではこのようにダブル・トラッキング効果は残っていません。最終的にワン・テイクのものが使用されたのか、もしかしたら複数のテイクの良いとこ取りなのかもしれません。
 ギターソロは "悲しき" デニー・ダイアス (髭のおっちゃん) が弾いています。途中フィンガリングが怪しくなるのはご愛敬か? フェイゲンはリハ・テイクではいらついているのか、ギターソロの間叫び続けております。"Let me hear your guitar solo"、"Holly Fuck" などなど。このギター・ソロはアウト・テイク版の段階から既にオーバーダブ済み。
 ベーシックトラックはジェフ、チャック・レイニー、マイケル・オマーティアンという構成。ジェフのドラミングですが、スティーリー・ダンの二人がどの程度のビ・バップ的なものを求めていたのか? このジェフの叩くドラミングである程度満足したなら完璧なビ・バップを求めたわけでもないんでしょうねぇ。個人的には素晴らしい曲とは思うけど、スティーリー・ダンとしてはちょっと中途半端な拘り方かなぁ〜などと感じてしまいます。

8. Chain Lightning
 この曲でも位相の狂いが "はっきり・くっきり" 分かってしまいます。そしてギターはなんとリック "イート・イット" デリンジャーが担当しております。スティーリー・ダンとリック・デリンジャーというとかなり異質な組合せなように思えてしまうのですが。こういうシンプルな曲になるとジェフのリズムが光ます。

9. Any World
 このアルバム中、唯一ジェフの参加していない曲で、他の曲と比較すると雰囲気が異質に聴こえてしまいます。それがジェフが単純に参加していないことによるものからなのか、それとももっと別の所にある理由のか? 何故この曲だけジェフが叩かなかったのか? 大きな謎です。ドラムはハル・ブレインが担当。彼のサウンドは割りと軽めで、ジェフの芯が太いものと比較してしまうとちょっと頼り無く聴こえてしまいます。録音は同時期なのでしょうが、なんか古くさく感じてしまいます。
 そもそもこの曲自体は他の女性アーティストのために用意されたらしいですが、スティーリー・ダンの曲としてはあっさりし過ぎでは?
 再びマイケル・マクドナルドのコーラスがかなり大きくフューチャーされてますが、これでもバッキングボーカルと言ってしまってよいものなのか? 多分殆どの曲にマイケルは参加していると思いますが、大きくフュチャーされているのはこの曲と二曲目の "Bad Sneakers" です。

10. Throw Back The Little Ones
 アルバム最後を飾る悲しい佳曲。思うに "Black Friday" というアップテンポな曲で幕開けしたわけですが、最後の二曲でぐっと沈みこんだ気分になるのは私だけでしょうか?

 この奇抜なアルバムジャケットはフェイゲンのガールフレンドのドロシー・ホワイトが手掛けたものだそうで、裏ジャケットに使用されたモノクロの写真はベッカーとロジャー・ニコルスが撮影したものだそうです。またアルバム・デザインは50年代の西海岸のジャズ・レーベル、コンテンポラリー・レコーズのフォーマットを意識的に真似て作られたそうです。

 というわけでこのサイトに来て頂いた方なら既に100%の方がこのアルバムを体験済みとは思いますが、もしまだ聴いたことがないという方がいらっしゃいましたら、今直ぐ入手して聞いて下さい! それ程大、大、大お勧め作品であります、又まだリマスター盤を聴いてない方はぜひともリマスター盤を体験されることを強くお勧めしたいと思います。私の場合は従来より発売されていたCD盤を持っていなかったので、アナログ盤とリマスター盤の比較という荒技をしましたので、そのギャップの大きさにえらく感激してしまったわけなのですが。
 ジェフはといえばこの時は若干21才にもかかわらず素晴らしいプレイの連続で、かなり練り上げたと思われるようなプレイをしているじゃないでしょうか。とにかく必聴盤です!
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アナログ盤
MCA Records VIM-4041
ロック・オリジナル名盤選シリーズとして発売されていたもの。
 オリジナル盤バックカバー
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 2000年にリリースされたリマスター盤
MCA Records MVCZ-10075
 リマスター盤に添付された新しいスリーブ
Steely Dan Katy Lied_Analog
 "Black Friday"のシングル盤。なんともサイケなデザインがいかしてます。
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