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Jack Daugherty And The Class Of The 1971
(写真1) ジャック・ドーティー
 ジェフが正式に行った初のレコーディング・セッションといわれるジェフ・マニア必聴のアルバムです。ジャック・ドーティ (写真1) はカーペンターズ等のプロデューサーということで名を馳せた人らしいのですが、この人自身の作り出す音楽については全く予備知識がないので、実際にこのレコードを聴いてみるまではどんなタイプの曲が演奏されているのか想像することすら出来ませんでした。ましてや単にライブハウス等でプレイしていたに過ぎない若干17歳の少年を異例な抜擢までしても行ったレコーディングです、そのサウンドたるやどんなものなのか興味津々でレコードに針を落としてみました。ジャンル的にはジャズというか、ビッグ・バンドと言ってしまってよいと思います。根っからのロック人間の私がこの手のアルバムを聴いてもあまり感動を得るということはないのですが、しかし . . . (A-1)Getting. . . Upを聴いた瞬間からいきなりヒート・アップしてしまい、ぶっ飛んでしまいました! 静かなオーケストレーションでフェイドインした曲は突然ツイン・ドラムによる激しいリズムの洪水に襲われます! もうこの曲をお聞きの方はご存じの事と思いますが、誰もが「本当にこれが17歳の少年のプレイなのか?」と思わざるを得ないでしょう。今迄この台詞は何度も何度も語り草のように言われ続けて来たわけですが、しかしこうして私もこのプレイを初めて聴いた時はやはり、この言葉がいやでも浮かんできました。リズム感といい、音のダイナミクスといい、本当に素晴らしいです。. . . すいません、もう少し気の利いた言葉で表現しないと、感嘆符ばかりの文章になってしまいそうですが。

(写真2) ハル・ブレイン
 予想を遙かに越えたジェフのプレイについつい興奮させられてしまいますが、しかしふと我に返って思うのが、「これは本当にジェフのプレイなのか?」ということです。「あまりに上手く叩け過ぎていやしないか?」そしてその疑問符を強くさせるのがハル・ブレイン (写真2) の存在なのです。当初このアルバムを手にするまではドラムを担当しているのはすっかりジェフとジム・ケルトナーの二人だけだと思いこんでいたのですが、実際にはハル・ブレイン、ポール・ハンプシャー等を含む計四人が参加しています。そう考えるとこの (A-1)Getting Up でプレイしているのが本当にジェフなのか急に不安になりました。更に、まだ17歳のジェフはいわゆる後の "ジェフ・スタイル" を完成させているわけではなく、上手いけどちょっと「没個性ぽい」プレイなのです (この上手いというのはもの凄く上手いという意味ですが) 。それはジム・ケルトナーと比較しても一歩も引けをとっていません! そんなわけで一瞬これはジム・ケルトナーとハル・ブレインのコンビによるものではないかと疑ったわけで. . . 。そこで腰を落ち着けてアルバム全体をよく聴き、それから誰がどの曲をプレイしているのか推測してみることにしました。というわけでここから先の話しはあくまで私の推測 (!) をまとめてみたものです。

 例によってこのアルバムでも誰がどの曲でプレイしているかは、ソロを担当した人以外は明記されていないのですが、卒業アルバムをイメージしたようなジャケットにはレコーディングに参加した殆どのメンバーの写真が添えられています。そして写真4 が若き日のジェフです。どうです、この顔つきは? この先L.A.のミュージック・シーンを背負って立つ顔に見えますでしょうか? ここまで凝ったジャケットのデザインをしてくれるなら曲毎の参加メンバーをクレジットしてくれればと思うのですが。従って後は私の当て推量に頼るしかないわけですが、前述のように都合4人のドラマーがセッションには参加しており、問題はどの曲で誰がプレイしたのか? この答えによっては冒頭に書いた私の驚きと感動は何だったのか? っていう話しになってしまうのです (笑)。

 私の感じた結論を書いてしまうと。まず「ジェフとジム・ケルトナーの二人がツインドラムで参加した曲がある」というのは二人の証言等から間違いないことです。そしてこのアルバム中ツイン・ドラムで演奏されているのは (A-1) Getting Up、(A-3) Feel So Good、(B-1) Number Nine の3曲です。この3曲を何度も何度も繰り替えし聴いてみたのですが、いずれの曲も同じ二人がコンビを組んで演奏しているように聞こえました。というわけであまりに単純な判断の仕方なのですが、この3曲に関してはジェフとジム・ケルトナーの二人が叩いていると思ってよいと思います。そして次に気になるのは「左右どちらのトラックに収まっているのがジェフなのか?」ということです。私の耳ではこれもほとんど判断が付きませんでした。というのもジェフ自身がジム・ケルトナーの大のファンということで彼を意識していたこともあるでしょうから、左右のドラマーのプレイがかなり似たスタイルに聞こえます。さらにツイン・ドラムということでフレーズも互いに合わせています、もうこれは殆どお手上げ状態でした。ただし一カ所だけヒントがあり、「もしかしたら」というフレーズがありました。それは (B-1) Number Nine においてです。
 この曲の中程でリズムがブレイクするポジションがあります。ここでなんとなんとバス・ドラムによる凄〜いフィルが入るのです。これだけならこれがジム・ケルトナーによるものとも取れますが、そのフィルは1982年にリリースされることになる『Greg Mathieson Super Project / Baked Poteto Super Live!』に収録される"Go"で、ロバート・ポップウェルが弾くベースソロのバックでジェフがスネアとバスドラムの素晴らしいコンビネーションプレイを聴かせてくれるのですが、先のフレーズがこれにそっくりなのです。果たして17歳でこんなプレイを出来るのか? と私も思うのですが、ジェフ自身はあのつま先でやるスライドテクニックをL.A.に移り住む前から使っていたというのですから、この歳でこの手のフットワークが自在に扱えたといしても不思議ではないですよね。そして私としてはこれがジェフであった欲しい! という強い気持ちで聴いているので余計そう聴こえてしまうのです。というわけで今はすっかりこの曲はジェフのプレイと思い込んでいます。勿論皆さんの中には別の感想をお持ちの方もいらっしゃると思いますので、どうぞご意見をお聞かせ下さいませ。
 話しを先に進めまして、で、このバス・ドラムをプレイをしているのが仮にジェフだとした場合、このプレイは右にチャンネルに納めてれらているので結果ジェフは右チャンネルでプレイ! と決めてしまいました。他にも細かい論点もあるのですが、その辺りは後述します。
 と、そんなわけでいろいろごご託を並べて来ましたが、いずれの説も「こうあって欲しい」という私の願望が強く出ているだけで、大した根拠なんてないんです、私のドラムという楽器への理解度では答えは永久に得られそうにないので、勝手にそう思うことにしました。

 さて、次に残りの曲はいずれもドラムパートはシングルプレーヤーが演奏しているのですが、私の判断ではどうもプレイスタイルが前述のツイン・ドラマーの二人とは違うような気がするのです。特にA面に納められた残りの曲です。全体的に切れというものがないように感じてしまうのです。演奏されている曲自体が地味目なものであるというのも影響しているかもしれませんが。う〜ん、本当に判断つきませんね。そう考えるとこれらの曲はハル・ブレインともう一人のポール・ハンプシャーなのかな〜と。. . . 難しいです。ジェフの証言によるとこのバンドのオリジナル・ドラマーはハル・ブレインだったとのことですから、もしかしたらそうであっても不思議ではないと思いますが。

Jack Daughterty / Jack Daughterty The Class Of Nineteen Hundred And Seventeen One
 では各楽曲に対する若干の感想を. . . (A-1) Getting Up はツイン・ドラムの二人がぐいぐいと素晴らしいグルーヴ作り出すアップテンポの曲です。私は右チャンネルのプレーヤーがジェフと思っているわけですが、そのプレイ自体はかなり派手です。この頃のジェフは回りの人達から「手数が多い、音がでかい」と言われていたそうなので、これも頷けます。加えてこのセッションでジェフとジム・ケルトナーが初めて顔合わせをした時に、ジム・ケルトナーがジェフに向かって「俺はリズムを刻むから、君がフィルを入れてくれ」と話しています (注1)。そんなわけでこの派手目のプレイはますますジェフではと思ってしまいます。

 (A-2) Someone To Love はコーラスのあるヴァースを含む、もどかしげなジャージーな曲です。はっきりいってジェフと言われればそうかもしれないし、違うといえば違うかもしれないし。分かりません! ミルト・ジャクソンによるヴィブラフォンのソロが心地良いです。

 (A-3) Feel So Good またしても右のチャンネルに収まっているドラマーはかなり派手目のフィルインを聴かせてくれます。時折ハっとするようなコンビネーションプレイとバスドラの力強さが心に残ります。そして左のチャンネルのドラマーは曲全体を通してすごく控え目なのです。普通でしたらこの控えめなプレイヤーこそ17才の少年ではないかと思うのが筋でしょうが。しかしこんな大人なしいプレイをさせる為にジェック・ドーティはわざわざジェフを呼んだのでしょうか? これは深読みかもしれませんが、やはりジェフの若さ溢れる力強いドラミングに惹かれて彼を起用してみようと思ったのではないでしょうか? だとしたらやはりこの地味に叩いているのはジェフのお目付役を任されたジム・ケルトナーだと思います、いや思いたいのです! いや〜思いこみってのは怖いですね。ちなみにこの曲でちょっとしょぼいギターソロが聴けるのですが、これはラリー・カールトンかな?

 A面ラストの(A-5)Brother And Sisters この曲はシングルハンドの16分でプレイされています。ジェフ臭くもあるのですが、(A-3) Feel So Goodで見せた切れのあるハイハットワークと比較すると、ちょっとダルいんですね。この曲もコーラスのある曲で徐々に盛り上がりを見せるのですが、どうなのかな〜。私としては他の二人のドラマーがどんなプレイ・スタイルを持っているか全く知らないので、簡単には判断出来ないのです。もの悲しげなメロディが心に残ります。

(写真6) ボビー・トーレス
 本アルバム中のベストトラックと思えるのがこの中 (B-1) Number Nine です。誰かのカウントを刻む声が聞こえ、曲がスタート。前述したようにジェフと思える人物はイントロから粋のいいプレイを聴かせてくれます。スネア・ドラムによるアクセントの入れ方がカッコイイ。そして間奏においては前述のような素晴らしいコンビネーションプレイを聴くことが出来ます。B面残り3曲が続くのですが、(B-1) Number Nine を聴いてしまうと、その迫力に押されてか幾分萎んで聞こえてしまいます。

 (B-2) The Stip で再び、ムーディな曲の登場。そして(B-3) LA Coast Drive 名付けられた曲です。このアルバムは毎週日曜日の午後に録音が行われたいたとのこと、この曲を聴くと1970年代初頭のロサンゼルスの陽気な雰囲気がサックスのソロによって上手いこと表現されています。好きですねこの手のタッチは。

 最後になってしまいましたが、このアルバムには若き日のラリー・カールトンも参加しています。そしてジェフがデヴィッド・ハンゲイトで出会うきっかけを作ったと言われているパーカニッションのボビー・トーレス (写真6) 。そして御大ジョー・パスまでもです。この豪華な顔ぶれどうでしょうか? しかし私自身このアルバムを聴けば聴く程ツイン・ドラムで演奏された3曲に多大なインパクトを受けてしまいます。

 と、以上長々とまとまりのないことを書いてしまいましたが、このアルバムに対する皆さんの感想もぜひお聴かせ下さい。よろしくお願いします。
(注1)「俺はリズムを刻むから、君がフィルを入れてくれ」と話しています
 詳しくはこちらを参照して下さい。
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